「…………」
「…………」
二人の男が喫茶店のテーブル席で向かい合っていた。
一人はタバコの煙を、吐き出しながら、いらだたしげに灰を落としていた。
もう一人は、膝に置いた手に視線を落として、縮こまっていた。
「話、あるんだろ?」
タバコをもみ消した男が口を開いた。
「…………」
視線を落としたまま、男は動かない。
「……何もない」
ぼそり、と俯いた男が言った。
「本当に何にもないのか? お前はそれでいいのか? 伝えたいことがあるんだろう」
「…………」
「…………」
また、嫌な沈黙の空気が流れた。
「………………」
「……………」
「…………」
「………」
「……」
「…」
「あ」
俯いていた男が急に顔を上げた。しかし――
「…………やっぱだめだ」
また、顔を伏せてしまった。
タバコをふかしていた男は、はぁ、とため息をついた。
「頼むよ、先生。今月中に一本、小説、書かないと」
「わかっている。わかっては、いるんだが……」
ある編集者と作家の一幕。
<了>