私の部屋には小さな家がある。
私が知っている家は本の写真の中でしか見たことがないが、三角屋根の家ではない。横長の直方体の家だ。どうして家だとわかったかと言えば、窓とドアがついているからだ。
この家は私の部屋の隅っこにある。
どうしてあるのか私にはわからない。ちょっと前、家の角に足の小指をぶつけ、とても痛い思いをした。
部屋の中央にあの部屋がなくてとてもよかったと思う。どうしてこんな家があるのかよく知らない。中に誰か住んでいるのだろうか。以前、確かめようとしたが無理だった。窓の向こうは見えないし、ドアはとても開きそうにない。
私はすぐに諦めた。それ以降、確かめようとしたことはない。
私はずっとこの部屋にいる。それは私にとってごく自然なことだった。部屋の扉が開かないのだから。
出ようと思わなかったわけではない。でも、出なくてもいいや、という諦念と妥協が私にはあった。特に不自由しているわけではない。
そいつが現れたのはとても唐突だった。いきなり、小さな家のドアが開いたのだ。
「うわ、人が出てきた」
そいつは家のサイズに相応な大きさの小人だった。私も驚いたが向こうはもっと驚いたようだ。でも私の驚きとはちょっと違う種類の驚き方だった。その証拠にその小人は驚きのあと、顔を緩めた。
「ああ……よかった。大きいけど話せる人がいた」
そいつはとても嬉しそうな顔をして言った。
それから私と小人は毎日話をした。話をするのは楽しかった。
話の内容は、本のことだったり、家具のことだったり、とにかく部屋の中にあるものだけが話題だった。
それでも十分、楽しかった。
テーブルの足に関する話はお互いとても盛り上がってしまった。
しかし小人は次第に弱っていった。
「自分のことはよくわかる……僕はたぶん、もう死ぬ」
彼は弱々しくそう言った。私は困った。どうにかして彼を助けることはできないのだろうか。
私は考えた。考えて、考えて、考えて。
彼は死んだ。私は結局、何も出来なかったのだ。彼の亡骸は景色に溶けるように消えてしまった。
私は悲しみに暮れた。どうして私、1人残ってしまったのだ。どうして、私には話をする相手がいないのだ。
彼が現れる前の生活に戻っただけだというのに、私は以前のように生活できなかった。
私は小さな家からまた彼が出てくるのではないかと、ずっと待っていた。
話し相手が欲しい。自分の悲しみを知ってもらいたい。
ふとしたことで私は自分の部屋のドアノブが回ることに気がついた。おかしい、以前は回らなかったはずだ。
私はドアを押した。開かなかったはずのドアがゆっくりと開いていく。
視界が開けた。そこは部屋だった。ただし、スケールが違う。
「うわ、人が出てきた」
外にいた巨人が言った。
「ああ……よかった。大きいけど話せる人がいた」
私は言った。
<了>