薄暗い部屋の子供






 
 少年の家は大きかった。色々な部屋があった。
 その子を見つけたのは、一度も入ったことのない薄暗い部屋だった。実は入ることが禁止されている部屋だ。
 綺麗な子だった。少年と同じくらいの歳の子供だった。
 その子は少年と同じように驚いていた。
 でも、すぐに表情を緩めた。少年はその子に一目ぼれしてしまったのだ。
 すると、相手も少し恥ずかしそうに少年を見つめてきた。少年は嬉しくなった。
「君は誰だい」
 少年は聞いた。
 答えは返ってこない。パクパクと口は動いている。不思議に思った少年はもう一度聞いた。
 何度も言葉をかけた。しかして、少年は気がついた。その子は話すことができなかったのだ。
 それでも少年がその子を好きな気持ちは全然かわらなかった。表情を見てるだけで相手が何を考えているのかなんとなくわかった。それは相手も同じようだった。少年は心が通じ合っているような気がしていた。
 その子をじっと見て分かったことがもう一つあった。その子はどうやら動けないようだった。
 次の日も、その次の日も少年はその子に会いにいった。
 少年は色々なことを話した。相手も、話そうと口を動かしてくれた。それが嬉しかった。少年はその子に触れたくなって手を伸ばした。相手も手を伸ばしてきた。指先が触れ合った。冷たかった。
 相手は悲しそうな顔をしていた。少年も悲しかった。
 動けず、口も聞けない、触れ合うこともできないその子のことがとても可哀想に思えた。助け出してあげたい、少年はそう思った。一緒に庭で遊んだりしたい。
 少年は父親に怒られるのを覚悟で、その子を助けてくれと頼み込んだ。
 父親は少年の言葉をいぶかしんだ。少年は父親を連れて薄暗い部屋に行った。
「ほら、あそこにいるでしょ。あの子だよ」


 立てかけられた鏡には少年と父親の姿が映りこんでいた。



<了>





2005/8/19 初版

・あとがき
 「少年、気づけよ。馬鹿かお前は」とつっこまれるのではないかと思っています。自分は小さい頃、祖母の家にあった古い鏡を見て驚いた記憶があります。自分が映りこんでいたのですが、まったく別の人が映っていたように感じられたのです。この少年を馬鹿と見るか、純粋と見るか、それは読者さんの判断に委ねたいと思います。
 馬鹿だと判断されたとしたら全面的に作者の実力不足なので思い切り作者を攻めましょう。できればお手柔らかに。



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