教室が薄暗くなってきた。
「空が暗くなってきたぜ。一雨くるかもな。俺今日、傘持ってきていないんだ」
「ふーん。だから?」
分かっているくせに聞き返してくるところが性格が悪いと俺は思う。
「雨が降る前に帰らせてくれ」
「この模造紙にグラフ書いたらね」
地味な眼鏡とレトロすぎる髪型――三つ網の同級生がにっこりと笑顔を作った。
そいつは教室の電灯をつけに立ち上がり、スイッチを押した。ぱっぱ、と蛍光灯がついた。そして床に広がった模造紙の脇にぺたりと座り込んだ。
俺は言った。
「なあーこれ明日でもいいだろ?」
「ダメ」
このやりとりを三回くらいやったような気がする。反応が次第に早くなってやがる。
俺たちは仲良く保健委員という委員会の中でも環境美化委員会の次に嫌な委員会に入っている。
渾身のチョキがお手軽なグーに負けたのである。おかげで「歯磨きに関するアンケート」について、模造紙に書かなくてはいけなくなくなったのだ。
「ほらほら、さっさと手を動かす。あ、赤マッキー取って」
俺は傍に転がっていたマジックペンを取って渡した。俺は仕方なく、ドデカ定規を模造紙に当て、直線を引いた。
ゴロゴロゴロ。
遠くで雷が鳴る音が聞こえた。
「あー、雷かよ」俺は窓の外を見た。暗い外はどことなく不気味だった。すぐに雨が降り出した。しとしと、なんていう生易しい奴じゃないザアアアア、と打ちつけるような雨だ。
そして――
カッと稲光が閃き、「きゃぁ」
数秒後、ゴロゴロゴロと……って、「きゃぁ?」
見ると小さな手が俺の制服を掴んでいた。
「か、雷だめなのよ。あたし」
ぶるぶる震えている。ありえない光景だった。
「まさか、雷さまにおへそをとられるとか思っているくち?」
「ば、馬鹿言わないで、そんな――」
ピカッと光った、とほぼ同時に爆音が響いた。ゴロゴロゴロじゃなくてドガガガガーンッ!! と気合の入ったヤツ。
かなり近くに落ちたらしい。教室の明かりが消えた。
俺は動けない。
しがみつかれている。その……柔らかいものが胸に当たっていたりする。髪の毛からシャンプーのいい香りがした。
こいつも女の子なんだな、と初めて思った。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。なんだこれ。ヤバイくらい胸がドキドキしている。
また光った。悲鳴。そして雷が鳴る。
ぎゅっとさらに強くしがみ付いてくる。
その……なんだ、むにゅっとした感触が当たっているどころか、押し付けられている。
保健委員も悪くないと思ってしまった雷が鳴った放課後だった。
<了>