とある診療所の診察室で一人の医者が頭を抱えていた。
「何故だ……何故なんだぁー!?」
看護婦が心配そうに医者に言った。
「先生、どうされたんですか?」
「僕の診療所はどうしてこんなに赤字が続いていると思うかね?」
「患者さんが少ないからでしょう」
「何故だ!? 僕の腕が悪いのか?」
「そんなことありませんよ、先生。先生は若いながらしっかりとした知識と医療技術をお持ちです」
「そうだ。僕は大病院で腕を磨き、認められてきた。なら何故だ? 何故、僕の診療所は流行らない。場所がわるのか?」
看護婦はゆっくりと首を振った。
「いいえ。この場所はとてもよい立地条件です。駐車場もしっかり完備されておりますし、建物も新しいです。わたしが毎日掃除しておりますので清潔感もあります」
「なら何故なんだ」
「……強いて言うなら先生は独立すべきでなかったということでしょうか」
「なにぃ」
「運命だと思います」
「……くっ、確かに君の言うとおりだ。こうなってくると非科学的な運命とやらを信じたくなってくるよ」
医者は自棄っぽく言った。
「改名されたらいかがでしょう」
「幸せを呼ぶ画数に変えろとでも言うのかね」
「いえ、そういうわけでは……」
この医者の苗字は藪という。
<了>