突然、携帯電話が鳴った。僕は心臓が飛び出るほど驚いた。
着メロで誰からの電話なのか見当がついている。
僕はとりあえず無視した。しかし相手も辛抱強くコールしてきた。根競べに負け、仕方なく電話に出た。
「あ、ようやく出た」
予想通りの相手だ。幼馴染だ。幼稚園、小学校、そして中学に至る今まで続いている腐れ縁だ。
「今、何してる?」
と聞いてきた。僕はいつものように返そうとする。
「い――」
明瞭な声が僕の声を掻き消す。
「息してるって言ったら撲殺するから」
電話口の幼馴染は僕の答えを先回りして言った。それにしても撲殺とはまったく物騒なヤツだ。思わずドキリするじゃないか。
「い――」
「生きてるって言ったら絞殺するから」
「に――」
「人間してるって言ったら刺殺するから」
「…………」
「ふっふっふっ」
電話の向こうから勝ち誇った幼馴染の声が聞こえる。
この電話を隔てた向こう側の世界に僕はもう戻れない。遠い。遠すぎる。
彼女の電話にはビックリした。でもその声はいつも通りで、本当に嬉しかった。
「今、好きな人と電話でじゃれあっている」
言った。言ってしまった。
「え――!?」
僕はすぐに電話を切った。そのまま電源も。ああ、まったくどうしてこうなったんだろう?
僕の周りには死体がある。
怒りに身を任せて腕で絞殺。もみ合ってついバットで撲殺。最後に包丁を持ち出して刺殺。
計――三つ。妹、母、父。
――僕はさっきまで人を殺してたんだよ。
僕は静かに泣いた。
<了>